“みんなが言う『普通』ってなんだろう?”
Twitterの漫画広告での文言に惹かれて、なんとなく気になった漫画。
発達障害を持つ人も、そうでない人にも。
「生きづらい人」みんなに読んでほしい漫画を紹介します。
「君と宇宙を歩くために」タイトルが秀逸である
端的に言えば、ASDの転校生とADHDなヤンキーが出会って友情を深めていく。というか。
そうやってまとめてしまえば簡単だけど、作中には「発達障害」といったワードは一言も出てきません。
ただ、明らかに「特性」が垣間見える。
転校生の宇野くんは、挨拶がバカでかい。
名前を知らない人と話すのが苦手。
会話が噛み合わない……とか。
いつもニコニコしていて、害を与えるタイプではありません。
ただ、家に帰ってきての姿。
主人公の小林がたまたま見てしまったその姿に、胸が締め付けられます。
「普通がこなせない」僕たち
「啓介ちょっと人と違うとこあるからさー」と弟(宇野くん)のことを微笑みながら語るお姉さん。
人と同じように生活するのにさ 工夫が必要な人もいるんだよね
泥ノ田犬彦 著「君と宇宙を歩くために」49Pより
小林は、それを聞いて「俺もそうなのかな」と帰る道すがら考えます。
小林は髪色も明るいし言葉遣いも荒っぽくて、
一見すればヤンキーで、バイトでやることがうまく覚えられないのも「やる気がないだけだろ」って思われがちな見た目をしています。
作者さんのインタビュー記事で、そんな「助けが必要だと思われなさそうなキャラクター造形」について意図的であることが語られています。
“普通”ができないふたりの友情物語 『君と宇宙を歩くために』誕生秘話 | ananニュース
一方で宇野くんの個性的なところを、キャラクター化しすぎないことにもこだわっているとの事。
私は、ああ。と納得しました。
この漫画のキャラクターは、漫画なんだけど本当に近くにいそうな気がする。
というかむしろ、「自分だ」って思えるんだよね。
身近に感じられるから、自分事として考えられるキャラクター設定
他の漫画の発達障害らしいキャラクターは、なにか極端に「できないこと」があるかわりに突出した才能を持つ天才として描かれることも多い。
でも、宇野くんは宇宙や星のことに強い興味を示していますが、そういう「天才キャラ」といったタイプではない。
小林もあくまでどっかの高校にいそうなヤンキーとして描かれています。
そんな一見正反対に見える二人が、「普通ができない」という共通点で友情を深めていく。
わかってねえのがバレるのは怖い でも宇野だってそれを乗り越えてきたんだろ
泥ノ田犬彦 著「君と宇宙を歩くために」61Pより
私はこの小林のセリフにジンときました。
ヤンキーはヤンキーで、メモを取って見ながらやるのはダサいと思われる。恥ずかしい。って気持ちも大いに理解出来ます。
一方私はクソ真面目に見えるようで、それでバカだと思われるのがつらくて、わかったフリをすることが多い。
ここでこのプライドを捨てて、宇野だってこういうことを乗り越えてきたんだから、って。クラスメイトの行動に影響を受け行動を変えられるのは、素直にすごいことだなって思えました。えらいよ。
”生きるのに工夫が必要な”二人が、お互いの姿を見て影響を受け合っている。
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ダチが困ってるから動くだけってな感じの、小林のノリについて
宇野くんが先輩の大きな声でパニックになってしまったとき、小林が声かけた感じ。表情もすごく良かった。
「あー イヤな顔になってんな」って。
腫れ物に触るように、病気に哀れむように、可哀想に。落ち着いて大丈夫だよ〜って対応するのも優しさのひとつです。
ただ特別視しないというか、ここにいるのが嫌そうだから静かなとこ行こうぜ!ってノリは、小林の良いとこだなって。
私はパニック発作は持ってないけど、こういう対応されたら嬉しい。
人と違うこと、で繋がった友情だけど。小林は友達として、どうしたらいいかを考えてるだけなんだよね。
ちなみにこのシーンの前にはデカい声で先輩と喧嘩して、その声を聞いていた宇野くんが苦しくなってしまったりとか、この性格が仇となることもあります。感情で動いてしまうところはADHDっぽくて憎めないところではありますね(笑)
先輩も先輩で生きづらそうで、共感する
発達障害者として描かれてるわけではないと思うんですが、
天文部の先輩も大いに共感できるキャラです。
過去にヤンキーから受けた苦い経験から、宇野くんが見た目ヤンキーでしかない小林といるのが心配な先輩。
でも言動がうまくなくて、前述したような小林との喧嘩、宇野くんのパニックに繋がっていきます。
寝る前にベッドの上で自分の言動を思い返してまたうまく行かなかった死にたいと思い悩む。
コミュ障あるあるですね……。
そして極端に、僕みたいのとは話さないほうがいいとか言っちゃう。
悪いヤツじゃないのは心の内を見ればわかります。
でも現実だと表面的な言動しか伝わらないから、人が離れて行っちゃうんだよねぇ〜。
切ないね。
タイトルにある「宇宙」の表現
発達障害者、とりわけASDは定型の人に「宇宙人」と揶揄されることがありますね。
定型発達者の世界のなかで「普通」が出来ず、まるで異世界の住人のように振る舞うことがあるから。
この漫画では「普通がうまく出来ない」様子をまるで宇宙に浮いているようだ、と表現しています。
じょうずに歩けないのを笑われる。
生きづらい我々にはままあること。
そこで宇宙飛行士にとってのテザー(命綱)が出てきます。
宇野くんが、自分が迷わないように戸惑わないように、こういう状況ではどうしたらいいかメモを書き留めてライフハック化していったもの。
私にとってのテザー=このブログ
小林よろしく私はADHD優位な人間なので、あんまマメなことは出来んというか。
体系だってまとめることが苦手だし、何かあったときにコツコツ書き留めていくことが出来ない。だから小林同様宇野くんすごいなって思います。
ただ、ふと思ったんだけど私にとってはこのブログがその役目を果たしていることもあるなーと。
ここは、発達障害はじめ生きづらさを抱える人が少しでも生きづらさが軽減するようなライフハック等をまとめたものです。
ブログ初心者へのアドバイスとしてよく言われることですが、読者のためになる記事を書くには「過去の困ってる自分に向けて書くといいよ」と。
でも、忘れっぽく、習慣づけがなかなか出来ない自分は、自分で書いたことをすっかり忘れてる時もある。
そして、のちのち見返してみて、「ああ、こういう時はこうするとラクできるよって自分で書いてたんだった」って思い出すことがよくあります(笑)
これって、「未来の忘れっぽい自分」に向けて書いてるとも言えるんだよね。
だから、私にとって常に歩き方を示してくれるってほど見返すものではないけど
間違いなくテザーのひとつではあるなと気付かされました。
宇野くんみたく、自分のためだけのテザーを作れたらいいんだけどね。
肌身離さず持って歩く、自分のためだけを動機にこういうことするエネルギーはないんだよなあ。笑
「君と宇宙を歩くために」ってとてもいいタイトルだと思います。
工夫しないとうまく歩けないけど、ひとりじゃないし、どうにか歩いていきたい。
私も歩きたくて毎日もがいているんだよな。
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生きづらい君へ。すっと沁み込むポカリのような作品
急に謎のキャッチコピー出してきたよ(笑)
我々、「普通をこなせない」人間は心穏やかに過ごせないことも多くて、心が乾いていくような感覚に陥ることがあると思います。
この漫画は、そんな乾いた心にすっと沁み込んでいく感じがします。
舞台が平成、というのも30代の私には刺さる。
すごく令和との違いを感じるという世界観でもないのですが。(あとがきで平成舞台と言っててそうなんだ!って思ったくらい)
あーでも、令和のヤンキーって多分ああじゃないから、小林を見て平成ヤンキーの雰囲気を思い出して懐かしいのかも。かつての学生時代をやり直しているような気持ちになるかな。
発達障害も今ほど知られてない時代だよね。
青春、いいな。自分の頃は……と暗い気持ちになるわけでなく、説教くさくもなく。
現代を生きる自分も小林や宇野くんに影響されて、自分も頑張ろうかなと前向きになれる本です。
おすすめ!!
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