「推し、燃ゆ」話題の小説は、発達障害の子が推し活に救いを求めた物語だった

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「推し、燃ゆ」という小説を知っていますか?

「蹴りたい背中」の綿矢りささん、「蛇にピアス」の金原ひとみさんに次ぐ芥川賞受賞最年少作家、
宇佐美りんさんの小説です。

タイトルを見るとおそらく推しに情熱を注ぐオタクのお話なんだなあ、
芥川賞ってそういうエンターテイメント性が高そうな小説も扱うようになったのかなあという印象を受けます。

違ってはないんだけど、メインになるのは生きづらさを抱えた高校生の物語だったよという話。
日常に生きづらさを感じている人にぜひ読んでほしいなと思ったので紹介します。

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宇佐美りん 著「推し、燃ゆ」の あらすじ

逃避でも依存でもない、推しは私の背骨だ。アイドル上野真幸を”解釈”することに心血を注ぐあかり。ある日突然、推しが炎上し――。デビュー作『かか』が第33回三島賞受賞。21歳、圧巻の第二作。

推し、燃ゆ :宇佐見 りん|河出書房新社 より

「推しが炎上した。ファンを殴ったらしい。」

センセーショナルなアオリ文(というか本文)が帯に使われてるのが印象的で、
私はタイトルの「推し」という言葉とともに、その炎上がどう収束するのかに興味がありました。

というのも私自身「推し」という存在がいて。

私の勝手なイメージですが、芥川賞の堅苦しいイメージに似つかわしくない
「推し」という、俗っぽい(と言ったら語弊があるかな)キーワードに、
どういう話の展開をするんだろう?と気になったんです。

作中では「発達障害」というキーワードは一切出てこない

私が、おそらく発達障害を持った主人公の小説だということを知ったのは
フォローさせていただいている、発達障害をお持ちの方のツイートがきっかけでした。

そしてニコ生のインタビューから、「発達障害」というキーワードは作中に一切出てこないということも知ります。

ふだんあまり小説を読まない私ですが、これは読まざるをえないと思いました。
ピンクの表紙でページ数もそこまで多くなく、手に取りやすい本です。

表紙絵もかわいいですよね。
SixTonesのボカロっぽい楽曲「うやむや」のMVのイラストも手掛けている、ダイスケリチャードさんの作品だそうで。

発達障害グレーゾーンの私が、惹きつけられたフレーズを語る

heart

ここでは共感したりとか「ああそうだよね……つらいよね」と
胸を締め付けられる想いに駆られたシーンを語っていきます。

生きづらさを「シーツの皺」に例える表現

寝起きするだけでシーツに皺が寄るように、生きているだけで皺寄せがくる。

宇佐美りん 著「推し、燃ゆ」9Pより

「寝起きするだけでシーツに皺が寄るように」ってのが上手い比喩だなあ〜と感動しました。

これは発達障害に限らず生きづらさを感じている人に共感してもらえると思うんですが、
特に何をするでもなく生きてるだけで疲れるんだ。
日常をこなす、ただそれだけで……

主人公の高校生「あかり」は、保健室にいるのが常連の子です。
学生生活での他者との関わりについての描写はそこまで多くないですが、保健室登校。それだけで、あかりちゃんがどういう背景を抱えているかが何となくおわかりになるかと思います。

生活の困難に対する「肉体の重さ」、推し活による「救い」

肉体の重さについた名前はあたしを一度は楽にしたけど、さらにそこにもたれ、ぶら下がるようになった自分を感じてもいた。推しを推すときだけあたしは重さから逃れられる。

宇佐美りん 著「推し、燃ゆ」9Pより

あかりちゃんは診断が2つほどついたと言っていますが、
もちろん発達障害って診断がついたからどうにかなるもんでもないんですよね。治らないし。

薬も合わなかったようで、「診断がついたところでどうしたらいいの。何も変わらない」という絶望と戸惑いを感じます。

んで、私はこの「推しを推すときだけあたしは重さから逃れられる」ってのすごくわかるんですよね。

推し活によって、日常の痛み・苦しみを一時的に忘れられるんだよね

個人的な表現をすれば、推し活というものは
一種の「瞑想」に近い。

瞑想というのは、呼吸に集中して「今、ここにいる自分」に意識を向けることで
反芻思考(過ぎたことを延々とクヨクヨすること)から意識を遠ざけるなど、
自分の「無意識」に気づく訓練というか。

(ちなみに私は何度試しても瞑想が続かないんですけどね!笑)

推し活って「○○くんカワイ〜〜!」とか「○○ちゃんの作品、こういう解釈なのかな?」というような「好きなもの」の存在に夢中になることだと思うんですけど。

そうやってると、少し日常のイヤなこと、辛いことを考えなくて済む。

私は仕事で毎日つらい(怖いボスに一日一回は必ず何らかの指摘を受ける)時期があって、
そのタイミングで推しグループのCDプロモーション期間だったので、すごく助けられました。
あれ、ほぼ毎日推しのパフォーマンス観られる時期じゃなかったら耐えられてなかったよ……。

あかりちゃんの場合は、推しの出演作や雑誌等のインタビューに目を通しラジオの発言などを聞いて、
推しの考えてること・感じてることを「解釈」するのを生きがいとしてます。

私はそこまで情熱を注いではいないのですが(そもそもCDすらレンタルで済ましてる勢)、
あかりちゃんの場合はASD的なこだわり・のめり込みが推し活に向かった感じなのかな。

あかりちゃんの推しのメンバーカラーが青色で、
私の推しも青だから、ちょっと親近感わいちゃったよ。

仕事中のパニックの表現がリアル。マジでちょっと泣いちゃった

はい、はい、すみません、と答えるけど落ち着くってどういうことだろうせわしなく動けばミスをするしそれをやめようとするとブレーカーが落ちるみたいになって、こう言っている間にもまだお客さんはいるのにと叫びだす自分の意識の声、体のなかに堆積したそれがあふれて逆流しかける。

宇佐美りん 著「推し、燃ゆ」49Pより

推し活費用捻出のために飲食店でバイトしているあかりちゃん。

ここのパニックの表現、涙が出てきてしまいました。
文章的にすんなり読める本だけど、ここのシーンつらくて一度中断しました。
めっちゃわかる。

私自身、飲食店のホールをしていたときにお客さんから頼まれたことを覚えられなくて。
落ち着いてって言われるけど、それが出来たら苦労しないよな。

パニックになってる間もお客さんは待ってる。日常のストレスを発散するためのお金を稼いでるはずだけど、
何やってんだろう。どんどん自分が嫌いになっていく。

著者の宇佐美りんさんは特に発達障害の当事者というわけでもないようですが、
ここのリアルな描写すごいなあと思いました。
取材とか勉強の末に、想像力で書けるものなの?小説家ってすごい……

出来ない理由を聞かれても。自分が一番知りたいよ

喉が押しつぶされるような気がした。どうしてできないなんて、あたしのほうが聞きたい。涙がせりあがる。

宇佐美りん 著「推し、燃ゆ」74Pより

おそらく学習障害を持っているあかりちゃん。
担任が「勉強がつらい?」と訊きそれに頷いた結果、「どうしてできないと思う」と言われた時の気持ちです。

私には表立った学習障害はありませんが(でも数数えられないとか暗算できない)
いやーほんと……うるせーよこっちが聞きてーわって感じですね!
ちょっとマジでここは、担任の理解が足りなさすぎる。

でも実際こういうやりとりって日常で多々あるんだよね。

できる人はできない人の気持ちがわからん。(共感してくれる人もいるけれど)
やる気の問題だろって思ってるの。そういう問題じゃなくて、やろうとしても出来ないんだよって!
フィクションなはずなのに苛立ってしまった。

働きたくても働けないなんて、「普通」の人には想像もつかないだろうね

「働け、働けって。できないんだよ。病院で言われたの知らないの。あたし普通じゃないんだよ」
「またそのせいにするんだ」
「せいじゃなくて。せいとかじゃ、ないんだけど」

息を吸い損ね、喉から潰れた音が出る。

宇佐美りん 著「推し、燃ゆ」92Pより

ここも本当に苦しい。

単身赴任から一時帰って来ている父親とのやりとりですが、
あかりちゃんは障害による挫折や失敗も手伝って、母や姉との仲が良好とはお世辞にも言えません。

この家庭における安心した居場所、何でも相談できる理解者がいないってのも本当につらくて。

私自身は家族との関係は良好ですが、
仕事でミスを繰り返してしまう。これがトラウマとなって、内心働くのが怖いとニートになってた頃に「これからどうするんだ」って言われたことがあります。

障害があるというのは、今も話していません。(というか医学的にはグレーゾーンで、あえて伝える必要もないのかなと。薬は飲んではいますが)

もちろん、親からしてみればいつまでプラプラしているんだと心配にはなるでしょうが、
働けって言われてもどんな仕事にでもすぐに就けるわけじゃないし、色々トラウマが増えていくたびに就職活動すら怖くなっていく感覚。

「普通」の人には、わからないんだろうなと。

本当に。たとえば足が動かない人に「立って歩け」なんて無茶は言わないくせに、
なぜこころのことは、「気の持ちようだ」と言われるのか。

そんなことを考えました。

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生きづらい子における「推し」という生きがい。とても大切なもの

treasure

私が「推し、燃ゆ」という小説に出会ったときまず想像したのは、
「推しの炎上」がいわゆる起承転結における「転」にあたるストーリーなんだろうな。ということです。

でもよくよく考えてみれば、
あらすじで「推しが炎上した」なんて盛大なネタバレをしているわけで、
そこはあくまで物語の始まりでしかないんだよね。

でも「あかりちゃん」という人物の人生をひとつの物語とすると、
「推しの炎上」は間違いなく「転」にあたるなと。

そこに至るまでのあかりちゃんの心の機微などが描かれていく感じです。

よくある青春小説というか思春期の少年少女が主人公のお話といえば。
その時点では確かに大きくて苦しい悩みごとでも、きっと大人になるにつれて解決されていく。そういう希望が感じられると思います。

でもあかりちゃんの場合は、成長して大人になってもきっと大きなものに悩み続けていくってのが、簡単に想像がつく。
それが「体の重さ」という表現にも現れている気がして。苦しいですね。

「推し」という一見ポップな響きのタイトルではありますが、
そこにはとても重くて深い気持ちが込められていると感じました。

「生きづらさ」を抱えるすべての人へ

――「生きづらさ」を抱えるすべての人へ。――
「推し、燃ゆ」のYouTubeプロモーション動画で使われているアオリ文です。

私がこの本を読むきっかけになった、発達障害をお持ちのTwitterの方も仰っていましたが、
明らかにそれとわかる描写をしておきながらも診断名をあえて出していない、これが良い判断だなと思いました。

障害名が出ていないことで、
広く「生きづらい人」に響く可能性が高まるなと。

「発達障害」と明言してしまえば、その診断を受けていない人は共感がしづらくなるから。

たとえばHSP、あるいはそもそもそういうカテゴリーに属している自覚を持たない人であっても。

人との関わりがうまく行かない、勉強ができない、仕事がこなせない。
何らかの「生きづらさ」を感じたことのある人であれば、
「ああ、これは自分だ」と共感してしまうのではないでしょうか。

ぜひ読んでみてください。

でもちょっとリアリティーあってつらくなるとこもあるかな。
私も仕事でパニックになるとこは寝る前に読んで「ハァ〜〜つら」と、続き気になったけど一旦中断して寝た。

でもあかりちゃんが推しの炎上を受けてどう行動していくのか気になって、
最後までスラスラ読めたよ。

生きづら界隈にとにかくオススメしたい

芥川賞受賞というと内容が難解なのでは……というのが
ふだんあまり小説を読まない私のイメージです。

私、軽い難読症(初見の活字が読みにくい)があって、そうとう興味がわく内容じゃないと読めないんです。
最近でこそ結構気になる本は読めるようになりましたけど。

中学生のとき芥川賞受賞小説を読んでみるか……となったけど、話自体に興味が持てなくて、
かといって文学的表現を味わうってのも難しくて。

文章表現が難しかったり、言葉を知らないから度々中断して意味を調べなきゃいけなかったり。それも小説の醍醐味ですが、そうなると話の内容が入ってこない……

同じような人も多いんではないかな。

「推し、燃ゆ」はそもそも「自分と似た生きづらい子のお話」自体が興味対象、というのが大きいですが、
文学的表現も比較的わかりやすく、かといってあっさりしてないというか。

例えば前述した「寝起きするだけでシーツに皺が寄るように」みたいな表現とか。
小説読めないとか言ってるけど、こういう文学的表現大好き。

そしてページ数もそこまで多くないので、ふだん本を読まない人でも楽に読めます。125ページ。

聴覚優位の人に、朗読版をおすすめする

いくらページ数が少ないといっても、読めない人もいるでしょう。

活字そのものが入ってこない抑うつ気味の人、私より重い難読症の人など。
わかります。私も本自体は得意じゃないからネ!

では、「耳から聴く」ってのはどうでしょうか?

「推し、燃ゆ」は、朗読版もリリースされています。
私はこの本じゃなくてビジネス書の音声学習をしたりしますが、通勤時とか散歩の時にラジオドラマ感覚で聞き流せていいですよ。

Audible(オーディブル)にて玉城ティナさんが朗読しているものが発売されています。

どんなものか、まずは内容を確認したい……という場合は、YouTubeにて公開されている
冒頭40Pの試し読み版をどうぞ。

こちらは声優・梶裕貴さんが朗読されています。

梶くんが演じる「推し」――上野真幸くんがカッコいいので必聴です。

【朗読】「推し、燃ゆ」

40Pって太っ腹だよな。
前述した発達障害の描写も、この試し読みでどんな感じかだいたい確認できます。

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まとめ

生きづらさを抱えた主人公と「推し」という存在によって物語が展開されていく
「推し、燃ゆ」。

日常、生きづらさを抱えて生きている人に、
ぜひ読んでほしい本です。

さらに推しがいる人は、「わかるわかる」って共感してもらえると思う。

……自分の推しには燃えてほしくないなぁ(笑)

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